しかし反撃もここまで

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【書評】葉真中顕『ロスト・ケア』

Category: 書評  
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私たちはテレビやネットといったメディアを通じて、日々様々なニュースに接している。

派遣、ブラック企業、就職氷河期、格差、自己啓発、検察・警察制度、検視、累犯、冤罪、司法、政策、メディア、震災、原発、貧困、生活保護、シングルマザー、うつ病、薬物依存、高齢化社会、過疎化、介護保険制度、ケアビジネス、尊厳死・安楽死。

これらの問題を扱ったニュースや記事を見ない日はない。
皆なんとなくそれらを理解しているつもりでいるし、不満や義憤やチャンスを感じて、なにか言及することもある。

「労働者を商品として扱う派遣は許せない」
「自己啓発とか言ってる連中はどうも気持ち悪い」
「努力してどこでも通用するスキルを身に付ければどんな時代でも生き抜ける」
「放射能と放射線の違いもわからない情弱な主婦が放射脳化しててワロタ」
「ナマポなんてもらうくらいなら氏ねよ社会のお荷物が」
「検察は保身と功名心からいくらでも勝手なストーリーを作り上げる」
「うつ病は甘え。結婚しないのも孤独死も自己責任」
「地方の過疎化問題は人口を集積したほうが効率が良い」
「これからは高齢化社会なのだからケアビジネスや老人向け市場が拡大する」


反射的な発言にしろ、あるいは”冷静で客観的な”分析や発言だとしても、我々が日々テレビやツイッターなどで目にするこれらの「議論」にはどの程度意味があるのだろうか。
ニュースの第一報が報じられ、その印象でAを悪者にして叩き、しかし第二報ではどうやらBが真犯人らしいとなじり、途中そもそも冤罪かも知れないからと警察やメディアを批判し、すっかり忘れた頃に見かけたルポを読んで実はCが黒幕だと憤り、判決には「やっぱりな」としたり顔で言ってしまう「善意」。
そしてすっかり良いことをした気持ちになって「本当の問題」は先送りになってしまう。自分自身、そんな日々を送っている。

無論、誰にも知られず見過ごされ放置されるよりも、たとえ間違っていたとしても話題になること自体に意味がある場合も多い。ネットはオープンな分、仮に間違った言説が拡散すれば、その分その検証も手厚くなり、結果的に議論がより深まることも多いからだ。最初からすべてを網羅した言説や完全な回答などあり得ないのだから、バカなことをやって、突っ込まれて、失敗して、謝って、検証して、修正して、を繰り返して、少しずつマシにしていくしかない。



ロスト・ケアロスト・ケア
(2013/02/16)
葉真中 顕(はまなか・ あき)

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葉真中顕『ロスト・ケア』を読んだ。
このエントリの冒頭で挙げた問題の数々は、実はすべてこの本で扱っているテーマだ。

とは言っても、著者は恐らく「キャッチーだから」これらの話題を詰め込んだ訳ではない。
確かにこの小説は「最近よくある」介護医療の現場をテーマとしたミステリーだ。テーマは重いはずなのにとてもわかりやすく、構成やトリックも巧妙で面白い、優れたエンターテイメント作品だろう。
その上、現実の様々なニュースや人物、会社、本、記事が露骨なくらい容易に思い浮かぶような箇所がたくさんある。

しかしそれらは単なる借り物や記号ではない。
同時代の作家が今この時に、そこから何を参照しようとしているのか、何を提起したいのかが生々しく伝わってくる。巻末に記載されている参考資料は参考資料としてだけではなく、「物語の外」=現実社会にある様々な問題へ我々を紐付ける機能も果たしている。
書きたいテーマを誠実に書いた結果、小説の中に出来上がった「架空の社会」に現実と同じく多くの問題が付随してきた。だからできるだけ多くの問題を、様々な立場を、同じように丁寧に描いたのではないだろうか。

そしてそれらを物語のために都合よく利用したり、うっかり印象論で断罪したり、わかりやすい「敵」を作ることを極力排除しようとしている。そうして分かった気になったり、溜飲を下げて終わることを恐れている、と言ってもいい。様々な立場の登場人物をフェアに描くことに最大限の慎重さを払っている。
フェアに描くとはどういうことか。糾弾するのではなく、それぞれの事情、背景、論理、信条、善意や悪意、強さと弱さを描くということ。そしてその忍耐強いフェアさゆえに、読み手は誰かのせいにして逃げることができず、現代社会が抱えている構造的な問題を、これまでの自分の言動を、そしてこれから起こるだろうことを、直視せざるを得なくなる。(*1)

読み終えて、自分はどうすれば良いんだろう、と思った。
相変わらずニュースに無責任なツッコミを入れ、テキトウに批評をした気になり、たいした行動もしない。面倒には関わりたくない、と正直思っている。他人に「良い人」と思われるための言動は小器用に理解しているから、そういう煙幕を張っておいて、こっそり自分だけ「安全地帯」に逃げられればそれで良いと思っている(このエントリももちろんその一環で書いている)。

それでも、最初から万能薬などないのだし、超人やカリスマが解決すれば済む問題でもない。
「ずっと前からわかっていたこと」なのに「誰も動かない/動けない」ことに対して、問題を指摘して、話題を喚起して、想像して、共感して、共有して、拙くてもバカなことをやって、突っ込まれて、失敗して、謝って、検証して、修正して、を繰り返しているうちに、何か少しでもマシなこと、役に立つことが出来るかも知れない。そう思って生きていくことにする。



****************************************


著者の葉真中顕(はまなか あき)さんは、以前別名義で書かれていたブログが大人気だった有名なブロガーさん(本職はライター)だったので、ご存知の方も多いかと思います。
自分もその愛読者の一人だったのですが、当時から教育問題や政治といった真面目なテーマはもちろん、将棋や映画、いやTENGAやプリキュアを語る時ですら!、一貫してこの「フェアさ」というものを大事にされていたように思います。それは多様な立場を想定するということだし(TENGAのエントリはふざけているようで、実際はジェンダーや思春期の実存、障がい者の性といった問題まで配慮していた)、「想像力の欠如」を憎むということだし(そう言えば『ロスト・ケア』内で一箇所この言葉が使われる場面はドスが効いていた)、データや研究をしっかりと尊重して印象論や感傷に流されない、ということに表れていたと思います。

だから「ブログをやったら人気が出たので本を書いて作家デビュー!」というネットすごろくやノマドサバイブ的な話ではなく(いや実際飯は食っていかなきゃなのは間違いないけれど)、元々社会に対していろいろな思いがあって、んでたまたま文学が好きで、物語の力を信じていていたから、それを託して小説を書いたんだろうな、と自分は理解しています。
まあそんなことよりシンプルに、自分の人生に「葉真中顕」という名のお気に入りの作家がひとり増えた、ということをとても嬉しく思います。


いやあんまりすげーわーさすがだわーとか勝手に持ち上げて下ネタを言いづらい雰囲気を作られても本人は困るだろうし、勝手な妄想を投影されすぎて作品の幅を狭めてしまうのもアレなので、次回作はぜひコミケ会場で起こるサークル同士の対立が凄惨な殺人へと発展するもエロジャンル別売上の推移というデータをきっかけに暴かれた犯人はヤス×ボスのBL作家だった的などうしようもないミステリーを全力で書いて頂きたいところです。ありがとうございました。


(*1)たとえば、本書は各登場人物ごとに細かく章立てられていて、それぞれの視点が行ったり来たりする。その際、Aが主役のパートでAが語るCと、BのパートでBが語るCはまるで違う。視点が違うから当然だ。しかしそれだけでなく、Aのパートの三人称で語られるCと、Bのパートの三人称でわざわざ描写され直すCも微妙に違ったりする。これは単にミステリーにおける叙述の問題ではなく、三人称、つまり”冷静で客観的”な分析、メタ視点、大局視、達観と呼ばれるものも、AやBの主観の上の客観なのだということを象徴してもいる、のかも




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「愛」なき国 介護の人材が逃げていく「愛」なき国 介護の人材が逃げていく
(2008/07/31)
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※現実への紐付け、ということでいくつかリンクを。
【SYNODOS JOURNAL】社会を構成する ―― 医療・介護・財政 土居丈朗×大野更紗×大西連
http://synodos.livedoor.biz/archives/2024415.html
【SYNODOS JOURNAL】制度改正論議にみる介護保険制度の欠陥 本間清文
http://synodos.livedoor.biz/archives/1886535.html
【累犯を断つ】(1)刑務所でしか暮らせない
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/feature/article5/20120604/20120604_0001.shtml
コムスン不正問題メモ: 極東ブログ
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2007/06/post_de05.html


※ネタバレでの一言はこちら。
『ロスト・ケア』ネタバレ感想
http://shikahan.blog78.fc2.com/blog-entry-181.html
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テーマ : オススメの本の紹介    ジャンル : 本・雑誌

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小説「ロスト・ケア」を読みました。 著者は 葉真中 顕 43人もの要介護老人が3年以上にわたり、ひっそりと、ゆっくりと殺されていた 犯人の目的は何なのか・・・ ミステリとしてよりか、介護 福祉現場の現状が大きく書かれていて 社会派な部分を感じられますね もちろ...

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